みなさんは冬に潜む危険について考えたことはあるでしょうか。
おそらく北海道に住んでいる方であれば思い当たることがたくさんあると思います。例えば、路面凍結における転倒事故や車のスリップ事故、無理な雪かきによって生じる肩痛や腰痛、外出頻度が少なくなってしまうことによる身体機能の低下などが挙げられます。今回はその中でも、路面凍結における転倒についてお話ししたいと思います。
転倒とは字の通り、「転ぶ・倒れる」ことを指します。これは、段差や勾配、人混みなどの環境に起因する外的要因と、自身のバランス能力や筋力、関節可動域、精神状態等の心身機能に起因する内的要因のどちらか、または双方がきっかけとなり起きてしまいます。前述した外的要因は地域による差も大きく、寒冷地では積雪や路面凍結によって歩行路が不安定になってしまうなど、安全性に関してばらつきがあります。実際の転倒割合に関して記述している文献において、2013年における不慮の事故による死亡者数の構成割合は、窒息が24.5%、転倒・転落が19.6%、溺死が19.0%、交通事故15.3%となっており、転倒・転落は第2位であると言われています。(大高 洋平,高齢者の転倒予防の現状と課題,2015 日本転倒予防学会誌Vol.1:p11-20)
このことから、転倒・転落は交通事故よりも割合が多く、日常生活の中においても引き起こされる可能性が高いと考えられます。また、年齢別においても高齢になるにつれ身体・精神機能低下などにより転倒・転落の割合が増加すると言われており、現在の高齢化社会下では増加していくことも考えられます。
続いて、転倒してしまった場合に何が起きてしまうかを考えていきましょう。実際に転倒・転落した時に、無傷で済む場合や逆に骨折等の大きなケガをしてしまう場合など様々なことが生じる可能性があります。
その中でも、ケガをした場合について考えてみると、手関節に関連する骨折の約96%、上腕骨近位部に関連する骨折の約95%、大腿骨近位部に関連する骨折の約92%が転倒によるものだと言われており(Nevitt MC. Falls in the elderly,1997,p13-36)、転倒と骨折は密接に関連していると考えられます。
特に高齢者の場合は、転倒・転落時に咄嗟の反応が遅れてしまうことや、骨密度の低下による易骨折性など、若年者と比較してなおさら気を付けなければなりません。また、寒冷地における積雪路や凍結路面では夏期の歩行路と比べてスリップによる転倒が増加するため、さらなる対策が必要となっていきます。
次に、転倒への備えについて考えていきましょう。前述していた転倒に関わる外的要因ですが、使用する用具や路面状況の確認によって転倒率を少しでも減少させることができると考えています。特に、積雪路面や凍結路面に関しては、前日の天気予報を確認し、急ぎの用事でなければ日程を別日に変えることや、目的地へのルートを比較的安全な道へ変更すること、杖や靴などを滑り防止用のピンなどが付いたものに変更するなど、事前の準備が重要になると考えています。
しかし、札幌市などの中心部では現在、防寒・防雪化が拡充してきており、地下歩行空間などでは冬期においても夏用の靴やスニーカーを履く歩行者が増えてきている傾向があります。(新谷陽子 他,ヒューマンエラーによる冬の歩行者転倒事故と対策,2005 日本雪工学会誌 21巻2号p121-124)
このことから、現在は積雪路や凍結路面に対する転倒への意識が低下していることが問題視されています。したがって、冬期の転倒予防を考える際には、ひとりひとりの路面への意識を変えていくことも重要であると考えています。
最後に、ここまで転倒予防に関して用具や路面への考え方について書いてきましたが、この他にも個人の身体機能も転倒への対策において重要となっていきます。例えば、筋力や関節可動域、バランス能力、歩行能力などの様々なものが挙げられます。これらは自宅でもトレーニングによって改善を期待することもできますが、トレーニングの方法が分からない方や不安な方は、ぜひ当院医師や理学療法士へご相談ください。
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