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 医師は症状や状態、どういった時に痛みがでたかといった受傷原因などを基に疾患を推測し診断をしていきますが、診断をより正確なものにする鑑別診断のためには画像診断が必要不可欠となります。


 画像診断には、レントゲン検査やCT検査、MRI検査、超音波検査、核医学検査などなど、様々な検査がありますが、それぞれに長所短所があり、症状から考え得る疾患に適した検査を行い、場合によってはそれぞれの検査を組み合わせながら診断していきます。当院では、レントゲン検査と超音波検査、MRI検査を行っています。今回は、整形外科領域において、MRI検査がどう役立てられているのか、ご紹介していきたいと思います。


 当院では、2019 年 4 月より(株)日立製作所製である 0.25 T のオープン型 MRI 装置 AIRIS Light を導入しており、2020 年度は 1800 件を超える検査を行っています。部位別の内訳としては、頸椎や胸椎・腰椎などの椎体系の検査が約1100件、肩関節や肘関節、手関節、股関節、膝関節・足関節などの関節系の検査が約600件、その他の部位や軟部腫瘍などの検査が約100件実施されております。


 MRIは、放射線を利用せず、強力な「磁石」とコイルによる「電磁波」を用いて身体を様々な角度から輪切り状(断面像)に画像化する検査です。特徴としては、まず、放射線を利用していないため、被曝がありません。また、組織分解能が高いため、脊椎の椎体や脊髄、椎間板の描出や、骨、関節内、筋肉を支える腱や靭帯、軟部組織などの描出に優れています。


〇整形外科領域でMRI検査が有用であるとされる疾患


頚椎症、胸椎・腰椎の椎間板ヘルニア、脊髄腫瘍、脊髄奇形、

四肢不全骨折、高齢者の新鮮圧迫骨折、スポーツ選手の疲労骨折、

関節の靭帯損傷、半月板損傷、骨軟部腫瘍 など


 一例として、上記MRI画像は、膝関節の検査で骨と骨をつなぐ役割である靭帯のひとつである前十字靭帯を表示したます。Aの正常例では、矢印で示しているように前十字靭帯は1本の黒い帯状に繋がっているのがわかると思います。一方、Bの異常例では、矢印部分で黒い部分が途切れ、白くもやもやしているようにみえます。前十字靭帯損傷の所見となります。このように、レントゲンでは表示することが難しいものを描出することができます。一方で、レントゲンでは靭帯は表示されませんが、周囲の骨の外傷や骨の位置のずれ具合などを評価しやすいため、組み合わせて検査することでより正確な診断が可能となります。


〇MRI検査を受ける際の注意事項


・当院では、MRI検査は基本的には予約制となっておりますが、検査枠が空いていれば当日検査することも可能です(状況によってお待ちいただく場合もあります)。

・検査時間は検査部位により15~30分ほどかかります。

・動きにとても弱い検査のため、検査中は動かないようにお願いします。

・MRI装置は巨大な磁石となっているため、金属を持ったまま検査室内の装置に近付くと急激に引き寄せられてしまったり、時計や携帯電話、クレジットカードなどの磁気カードは磁気の影響で使用できなくなる恐れがあります。また、火傷の危険性などがありますので MRI検査を受ける際はできるだけ薄化粧、軽装にて来院いただけると幸いです。


・安全に検査を受けていただくためにも当院ではMRI検査前に問診(同意書)をとらせていただいています。心臓ペースメーカーや埋込型除細動器(ICD)がある方、妊娠中の方など、回答の内容によってはMRI検査をお受けできない場合もありますのでご了承ください。



 今回は、5月1日号の続きです…




 

 診断は、問診で膝の痛みや腫れの状態などを確かめた後、レントゲン検査を行い、関節軟骨のすり減りの具合などを確認し、それらの結果をもとに判断します。


 治療は、痛みの軽減や症状の進行の抑制を目標とする「保存療法」と、痛みの原因を根本的に取り除こうとする「手術療法」があります。


 多くの患者さんにとって治療の第一は保存療法となります。肥満の人は減量をするなど膝への負担を減らします。運動療法では、膝を支える太ももの前側の筋肉・大腿四頭筋などを鍛える運動を指導します。膝には体重の数倍の力がかかっていますが、その5〜7割は太ももの筋肉が引き受けています。安静にするだけでは筋肉が衰え、膝痛が悪化する悪循環に陥ってしまいます。また、足底板やサポーターなどの装具を使って膝への負担を減らしたり痛みを軽減したりする場合もあります(装具療法)。


 薬物療法には、痛み止め(消炎鎮痛剤)の飲み薬・貼り薬や膝関節内にヒアルロン酸を注射する方法などがあります。ヒアルロン酸は軟骨や関節液の成分の一つで、関節の動きをよくする潤滑油としての役割も果たしています。膝関節内にヒアルロン酸を注射することで、関節軟骨を保護し、痛みや炎症を抑えて症状を改善するだけでなく、病気の進行を抑える効果も期待できます。


 ところで、患者さんから「膝の痛みに、飲むヒアルロン酸などサプリメントって本当に効きますか?」というご質問をよくいただきます。以前、コラムでも取り上げましたが、私の返答は「それらのサプリメントが膝の痛みに効くという科学的・医学的根拠はないので、効果は期待できません。ですから、私はお勧めしません」となります。変形性膝関節症に効果があると謳われるサプリメントの代表はヒアルロン酸のほか、グルコサミンとコンドロイチンです。これらは関節軟骨の重要な成分であり、これを内服することの変形性膝関節症に対する効果を確かめる臨床研究が広く行われてきましたが、科学的・医学的に信頼性が高い研究のほとんどが、「効果は認められない」と結論しています。そもそもサプリメントは薬のような形状ですが、医薬品ではなく食品です。食品ですから、病気を治す効果は証明されていませんし、サプリを飲むだけで健康になったりはしません。効果を暗示した魅力的なキャッチコピーや利用者体験談を使った広告が目立ちますが、それらのサプリメントは効果や安全性が保証されているわけではないことを理解してもらいたいと願っています。


 保存治療で痛みが軽減されず、日常生活や仕事に不便を感じるようであれば、手術療法が考慮されます。


 一般的に症状が進行期(軽度〜中程度)であれば「骨切り術」が、末期(重度)であれば「人工関節置換術」が行われます。ただし、骨切り術が適しているか、人工関節置換術が適しているかは、関節や関節軟骨の状態によるのですが、患者さんの考え方やライフスタイルによるところも大きいので、主治医とよく相談する必要があります。


 骨切り術は、すねの骨の一部を切り、O脚を矯正してややX脚にすることで、ひざの内側にかかりすぎていた負担(体重)を外側に分散させる手術です。いくつか術式がありますが、最近では膝の内側から骨を切って広げ、時間とともに本物の骨に置き換わる人工骨を挿入し、金属のプレートで固定する方法が多くなっています。自分の関節を温存できるのが利点で、他の手術法と比較して侵襲(心身に及ぼす影響)が少なく、術後の日常生活に対する制限も少ないです。

 

 人工関節置換術は、変形して傷んだ関節の骨の表面を取り除き、金属とポリエチレンでできた人工関節に置き換える手術です。変形して傷んだ部分だけを置き換える「部分置換術」と、すべてを置き換える「全置換術」があります。最大の利点は、一度手術を受けて回復すると、以降は痛みがほとんどなく生活できる可能性が高いことです。現在、人工関節は術後20〜30年は持つとされ、大きなアクシデントがない限りは生涯、人工関節の入れ替えを必要としないケースがほとんどです。術後は、関節に大きな負担を与えるような動作は控えてもらいますが、日常生活にはほとんど支障がありません。ジョギングやゴルフなどの簡単なスポーツ、登山、旅行なども楽しめます。


 保存治療を続けるか、手術に踏み切るかは、患者さんが今後どのような生活を送りたいかによって異なってきます。「とにかく手術がいやだ」という方もいらっしゃいますから、その場合は可能な限り保存治療を続け、痛みを緩和しながら日常生活を問題なく送るための手助けを行っていきます。また、症状が進んでいても痛みがあまりないのであれば、すぐに手術する必要がありません。


 もし、膝の痛みや変形が強くなってきて、日常生活が困難になっていたり、趣味や生きがいなど自分のやりたいことができなくなっていたりするのなら、手術を検討するタイミングといえるでしょう。膝の骨切り術、人工関節置換術は整形外科分野の中でもポピュラーな手術で、長期的に安定した治療成績が報告されていますので、安全性や痛みなどへの不安から手術に抵抗がある人は多いと思いますが、過度に怖がる必要はありません。「スポーツを続けたい」「いろいろなところに旅行に行きたい」など、これからも活動的な生活を送りたいと考えているのであれば、患者さんの満足度が高いのは、痛みが取れる割合が最も高く、生活の質が大きく改善される手術による治療だと思われます。


 最後にどちらの治療方針で自らの痛みに向き合っていくかを選択するのは患者さん自身です。症状が悪化する前に真剣に治療に向き合ってほしいと思います。


 現在も日本人の平均寿命は延び続けていますが、肝心なのは、日常的な支援や介護を必要とせず、健康で自立的な生活を送れる「健康寿命」を延ばすことです。そのためのカギとなるのは、最後まで自分の脚で歩けるかどうかです。


 どんな病気にもいえることですが、医師による早期診断・早期治療が何よりも大切です。年だから仕方ないと我慢したり、自己判断だけで対処したりするのはいけません。少しでも膝に痛みや違和感があったり、不安を感じたりするなら、すぐに整形外科を受診し、一度自分の膝がどのような状態なのか確かめてみてください。将来の膝の健康を守ること、また、少しでも早く膝の健康を取り戻すことが、健康で長寿を迎えるための一番の近道といえます。





 


  中高年の方やスポーツをしている方など、「膝が痛い」という悩みを抱えている方が少なくありません。


 スポーツをしている若い方は、練習や試合での激しいプレーなどで膝に大きな負荷がかかり、膝の靭帯や半月板などを損傷してしまったというものが多く、「膝(前十字・後十字・内側側副・外側側副)靭帯損傷」「半月板損傷」「鵞足(がそく)炎」「ジャンパー膝」「オスグット・シュラッター病」「膝蓋骨不安定症」「膝蓋前滑液包炎」「膝関節水腫」など症状・病名は多岐にわたります。


 一方、中高年の方が「ひざが痛むので、歩くのが億劫」「歩くときに違和感を覚える」「正座できない」など、ひざの痛みや違和感を訴える場合、最も頻度が高いのは「変形性膝関節症」です。


 変形性膝関節症は、膝の関節軟骨がすり減り、関節内に炎症が起きたり、関節が変形したりして痛みが生じる病気です。加齢、肥満、過去の膝の外傷などが原因とされ、特に女性に多くみられます。40代後半から50代、60代で痛みや違和感を感じ始めることが多く、加齢とともに誰にでも起こりえます。

 国内で変形性膝関節症の自覚症状がある患者は約1000万人、自覚症状はないもののレントゲン検査でこの病気の所見がみられる潜在患者は3000万人に達するとされています。日本人の約5人に1人、40歳以上では約3人に1人、50歳以上では約2人に1人が変形膝関節症を抱えているというデータも報告されており、がんや糖尿病と並ぶ<現代の国民病>の一つといえます。


 変形性膝関節症は、ゆっくりと進行していく病気です。初期症状は、立ち上がりや歩き始めといった動作を始める時、階段の上り下りの時などの痛みや引っ掛かり、ぐらつきで、しばらく休むと痛みはなくなる場合が多いです。膝を動かした時に痛みを伴うボキボキ、ゴリゴリ、ザラザラという音やきしみなどの違和感を覚える人もいます。

 症状が進むと安静にしていても痛みが治まりにくくなります。また、炎症により関節内に水がたまって腫れたりします。さらに進行すると、膝の曲げ伸ばしができなくなったり、ひざが大きく変形してO脚になったり、普通に歩くことができなくなるなど日常生活に支障をきたすようになります。

 

 変形性膝関節症と診断された方はそうでない方に比べ、移動能力の低下や運動器疾患の重度化、転倒による骨折などによって寝たきりや要介護になるリスクが約6倍高くなることが厚労省の研究で分かっています。また、結果的に認知症につながる可能性も懸念されています。


 発熱や頭痛とは違って、ひざの痛みや違和感は「年のせいだから」「まだ大丈夫」などと放置し、医療機関を受診しないケースが多いです。非常に残念なことです。変形性膝関節症は進行性の病気ですから、放置していて良くなることは絶対にありえません。徐々に痛みや変形が強くなっていきます。


 関節軟骨は一度すり減ってしまうと、完全に元の状態には戻りません。重症化してからでは、日常生活への影響もそれだけ大きくなるので、できるだけ早期に治療を始め、症状の進行を抑えることが大切です。初期の段階で受診すれば、症状と進行度に応じた治療法を検討できるので、治療の選択肢が広がるというメリットもあります。


 変形性膝関節症は、動作を始める際の痛み・違和感が受診のサインです。


 立つ、歩く、座る、かがむ、階段を上ぼる・下りる、などの動作時に痛みや違和感を覚えたら、すぐに受診してください。


 次号では、診断・治療について詳しく解説させていただきます。

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