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 近年、肩の痛みや肩こり、腰痛などの治療法として注目されているのが、「ハイドロ(筋膜)リリース」です。


 ハイドロリリースがどんな治療法なのかを説明する前に、「トリガーポイント」という用語についてお話します。トリガーとは「引き金」という意味で、トリガーポイントは痛みを起こす引き金となるポイントのことです。


 トリガーポイントは、長い時間、同じ姿勢でいる習慣を持つ人に多く見られます。長い時間同じ姿勢でいると、筋肉が緊張し収縮した状態になります。筋肉が収縮すると毛細血管が圧迫されて血行が悪くなり、神経や筋肉へ運ばれる栄養素や酸素が減少します。さらに老廃物の蓄積や筋肉の酷使、損傷が重なると、神経が異常に興奮した状態となり、炎症物質が放出されます。これがトリガーポイントのできた状態です。


 肩や腕、腰などに慢性的な痛みがある場合、押すと痛みが広がる<硬いしこり>のようなものがあります。これがトリガーポイントです。これまでの研究から、トリガーポイントは筋肉などを包む「筋膜」という白い膜が厚くなっている部分に多く存在していることが分かってきました。また筋肉のこりや、運動後の筋肉の痛みの多くは、筋膜が関係していることも明らかになってきました。


 筋膜は、筋肉だけでなく、骨や臓器、神経、血管など体中のあらゆる構成要素を傷付けないよう包み込みながらつながり、それらの位置を保つ働きをしています。何層もの膜で構成される筋膜がスムーズに動くことで、筋肉や関節がうまく動きますが、同じ姿勢を続けたり、筋肉を酷使したり、あるいはストレスなどで緊張した状態が続いたりすると、筋膜同士や筋膜と筋肉、筋膜と他の組織が癒着して、硬直し、<こり>のような状態になります。筋肉を動かせる範囲が狭くなり、癒着部分が炎症などを起こし、トリガーポイントとなって痛みを引き起こします。


 そこで、筋膜の癒着をリリース(はがすこと)して元の状態に戻すことで、スムーズに動かせるようにするのがハイドロリリースという治療法です。


 具体的には、超音波診断装置(エコー)で患部を確認しながら、癒着部分に生理食塩水などを注射器で注入して筋膜をはがします。分かりやすく例えると、ラップが何枚も重なっているような状態なので、間に水を注入して1枚ずつはがすようなイメージです。痛みはほとんどなく、治療にかかる時間は、外来診療で、数分で終わります。


 近年、エコーの解像度がとても良くなり、筋膜が厚く重なっている部分がはっきりと白い層として映るようになりました。トリガーポイントのある場所、筋膜の癒着している部分に確実に薬液を注入することができ、痛みも速やかに解消することが期待できます。


 また、注射の時に血管や神経を傷付ける心配もありません。被ばくもなく、患者さんの負担の少ない低侵襲な治療といえます。数年来、激しい肩の痛みや腰痛に悩まされていた患者さんが、月に1、2回程度、ハイドロリリースを受けたところ、ほとんど痛みを感じなくなり、正常の生活が送れるようになって、旅行やスポーツもできるようになったという喜びの声も多く聞かれます。


 ハイドロリリースと並行して、リハビリを行うことで、筋肉などの動きをスムーズにしてバランスを整え、より治療効果を上げることが望めます。ハイドロリリースで最初の痛みが取れても、同じような姿勢や生活習慣を続けていると、また痛みが生じる場合もあるので、リハビリを併用することも重要です。


 ハイドロリリースの対象となるのは肩の痛みや肩こり、腰痛ですが、ほかに肘関節痛や膝関節痛、頸部痛、手のしびれなどにも応用されています。この治療法が有効なのは、筋膜にトリガーポイントがあることが原因のものです。もし、まったく効果がない場合は、痛みの原因がトリガーポイント以外にあることが考えられます。


 新しい治療法なので、まだ解明しなければならない点もありますが、整形外科領域のさまざまな痛みの治療に応用できるため、今後さらに広がっていく可能性があります。


 ハイドロリリースは、当院でも昨年4月より症例を限定して施行しており良好な成績を収めております。どの医療機関、整形外科でも受けられる治療ではありませんが、ブロック注射などと同様に、保険適用の治療ですので、安心して受けていただけます。


 画像診断をしても原因のはっきりしない肩や腰の痛み、筋肉や骨格系の痛みや、何らかの治療を受けているのに慢性的な痛みが取れず、悩んでいる方がいらしたら、ぜひ一度、諦めずに相談に来ていただきたいです。




 
  • 2020年2月20日

 

  一般的に温めると聞くと入浴やカイロなどが浮かびます。医療現場で行われる温熱療法には、「ホットパック」「マイクロ波」「赤外線」「超短波」などがあり、多くの病院や治療院で使用されています。当院のリハビリテーションでも温熱療法を用いることがあります。主な目的としては、疼痛緩和・軟組織柔軟性向上・血行の改善・代謝亢進・浮腫軽減・リラックス効果などがあります。


 今回は、リハビリテーションで用いる「ホットパック」についてお話したいと思います。


 ホットパックは、温熱療法の一種でパック状のゲル物質や熱線が入った物の総称です。

温熱療法は、痛みの原因となる患部を温めて血行を良くすることで、筋肉の緊張を緩和する効果があります。慢性的な腰痛や肩コリに効果的です。表在温熱として用いられていますが、小平らによると、深部の血流量の増加も認められたと報告があり、表面だけではなく深部の組織の温熱効果も期待できます。(小平智之 他;ホットパック療法による筋硬度、血流量に対する効果の検討―準ランダム化比較対象試験による検討―理学療法学術大会2012)


 理学療法診療ガイドラインによると、背部痛や変形性関節症などの疾患の方に温熱療法を行った際に、症状の緩和などの効果があったとの報告があります(理学療法診療ガイドライン 背部痛・変形性膝関節症)。また、向中野らによると、温熱療法を行いながらのストレッチを同時に行なうことで、ストレッチの効果が高まったとあります。(向中野直哉 他:ホットパックとストレッチングの同時実施の介入効果に関する検討;理学療法学Supplement2016(0),0499,2017 公益社団法人 日本理学療法士協会)


 温熱療法は、病院で痛みの改善などの目的で用いられていますが、自宅でもセルフケアとして行うことができます。


①蒸しタオル…水で濡らしたタオルを軽く絞り電子レンジ500Wで約1分加熱すると蒸しタオルの完成です。タオルのままだとすぐに冷めてしまうので、ジップロックなどに入れて熱が逃げないようにしてください。火傷の危険性があるためタオルで巻いて患部に当てることをおすすめします。使用する時間は15~20分程度が目安です。


②入浴…入浴すると全身の血行が良くなるため、全身のコリの改善や疲労回復につながり、リラックス効果もあります。ぬるめのお湯(38~40℃)でみぞおちくらいまでの深さにしましょう。深く浸かってしまうと水圧の作用により心臓への負担が大きくなってしまいます。


以下のような方はお気をつけください

痛みの強い急性期、悪性腫瘍、血圧異常、心疾患、皮膚疾患部位、重篤な循環器の障害、妊娠中、感覚障害、出血傾向のある部位


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 日本で開催されたラグビーワールドカップ(W杯)2019は、日本代表の素晴らしい活躍もあり、大きな盛り上がりをみせました。今年は、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックを迎える年です。マラソン・競歩の開催地が札幌市に決まり、皆さんのスポーツへの関心もますます高まっているのではないでしょうか。


 野球やサッカーなど、小学生のころからスポーツに打ち込む子どもが増え、スポーツ外傷・障害が目立っています。


 スポーツ外傷とは、スポーツをプレイ中に大きな力がかかり、起きるけがのこと。ねんざや突き指、打撲、肉ばなれ、骨折などです。


 スポーツ障害は、習慣的に運動を繰り返すことや、トレーニング過多により起きる痛みなどのこと。いわゆる「野球肘(野球の投げる動作の反復によって起こる、主に肘の内側が痛む障害)」、「テニス肘(テニス、バトミントンなどラケットを使うスポーツによる、主に肘の外側が痛む障害)」、「ジャンパー膝(バレーボール、バスケットボールなどジャンプを繰り返す運動による、主に膝の前方が痛む障害)」などです。


 大人に比べて、子どもの体は、①骨が弱い ②筋力が弱い ③関節がやわらかい、などの特徴があります。このため、運動によって大きな負担がかかると、骨や関節に障害を起こしやすいです。また、成長期にあり、身長が急激に伸びる時期でもあるため、骨の成長に筋や腱の成長が追いつかず、関節がかたくなりやすいことも、けがの誘因になっていると考えられています。子どもが自らスポーツ外傷・障害を予防するのは難しいので、保護者や指導者が、特定のスポーツにより起こりやすい疾患について知識を持ち、発生や再発を防ぐことが重要です。


 例えば、野球肘は肘が下がった状態で投げると起こりやすいです。フォーム改善はもちろん、肘を上げて投げられるよう、肩をやわらかくすることも大切。テニス肘は、手首を外側に回したり、そらしたり(背屈)する筋肉は肘の外側に付いており、この筋肉を使い過ぎているため、付け根に炎症を起こして痛みとなります。負担の少ないラケットを選び、手首を使わず腰と肩でラケットを振るなど、正しいフォームをマスターすることも必要です。ジャンパー膝の予防には、クッション性・ホールド性に優れたシューズを選び、入念なストレッチや膝へのサポーター装着、運動後のアイシングなどが有効です。


 このようにスポーツ障害の原因として、身体の状態やフォーム、練習方法、ケアなどに問題があることが考えられます。一つずつ解決していくことが鍵になります。


 また、子どもは痛くても、保護者や指導者になかなか言い出せません。練習ができないことや試合に出られないことが嫌で、痛みを隠しているケースもあるでしょう。わずかな痛みや腫れ、関節の動きの悪さなど、子どもの症状を見逃さないでほしいです。早期に発見・治療できれば、それだけ早く、簡単な治療で症状を治すことができます。また、子どもたちの「競技を休みたくない」という気持ちを可能な限り優先した、スポーツを続けながらの治療も、早期であればあるほど可能なケースが多くなります。


 高齢化社会の進展に伴い、中高年のスポーツブームも活発になっています。ゴルフやテニス、ランニングに汗を流している中高年の方も多いでしょう。また、健康のために…とウォーキングや筋トレなど、日常的に運動する習慣のあるシニア層が増えています。適度な運動は、健康増進効果、介護・介助予防に非常に有効であることは、医学的にも確認・証明されています。ただし、やり過ぎは禁物です。スポーツ外傷・障害や突然死のリスクを高めることにもなりかねません。


 年齢とともに体力や筋力、骨量、バランス感覚の低下など、さまざまな身体機能が衰えてきます。それを自覚せずにスポーツを始めると、体がついていかず、けがをしたり、体調不良を引き起こしたりすることになります。


 ①:張り切り過ぎない、頑張り過ぎない ②:スポーツをする前後にストレッチなどの準備運動をする ③:こまめに休憩をとる ④:息切れや動悸などの症状が出た場合は休む ⑤:体に痛みや異常を感じたら、すぐ医療機関を受診する、といったことを守りながら、マイペースにやっていきましょう。


 スポーツ外傷・障害の診断・治療や予防をしたり、スポーツによる健康維持・増進をアドバイスしたり、サポートする専門家が、スポーツドクターという資格を持っている整形外科医です。


 「なるべく早く、そしてスムーズにスポーツに復帰できるように治療してほしい」「スポーツによるけがの再発を防ぎたい」「フォームなどを改善して、より高いパフォーマンスが出せるようになりたい」。そんな思いに応えるのがスポーツドクターの役割です。

 

 一方で、「すごく運動しているわけじゃないのに、加齢とともに肩や肘、股関節、膝といった部位が痛み出した。原因を知り、治療をしたい」「高齢でも、健康のために長く続けられる運動のやり方を教えてほしい」といった訴えに応えるのもスポーツドクターの役目です。


 「スポーツ」や「肩や肘、股関節、膝といった運動器」にかかわる整形外科的な症状でお悩み・お困りの方は、ぜひ一度、スポーツドクターの資格を持つ整形外科医に相談してみてはいかがでしょうか。



 
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