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『フレイル』って何?健康と要介護の間の状態整形外科で生活指導、運動・食事で予防や改善が可能

 皆さんは「フレイル」という言葉はご存知ですか?


最近では新聞やテレビでも取り上げられるようになりました。フレイルとは、高齢者の心身の活力(筋力・認知機能・社会とのつながり)が低下して弱くなった状態をいいます。


 多くの高齢者は健常な状態から、筋肉量が減少する“サルコペニア”という状態を経て、生活全般が衰える“フレイル”になり、坂道を下るように日常生活でサポートが必要な要介護状態となります。坂道の角度は人それぞれ違っており、糖尿病や高血圧など慢性疾患を抱えている人ほど要介護状態となりやすく、急な下り坂になります。


 高齢者の身体は個人差が大きいですが、弱ってくると、筋肉の量も質も低下し、筋力が衰えます。そして、「外出しなくなる→エネルギーの消費量が減る→食欲が落ちる→栄養不足になる」という悪循環が起きます。このように活動力の低下と食欲不振、社会的交流の減少など、運動習慣・食習慣・生活習慣のどれか一つが変化することで、フレイルの要因は相互に影響し合いながらどんどん悪化する傾向にあり、この悪循環をフレイル・サイクルといいます。


 昨今は、新型コロナウイルスの感染拡大で外出もままならなかったため、“コロナ・フレイル”の進行が懸念されています。国立長寿医療研究センターが65~84歳の高齢者1000人を対象に調査したところ、1週間あたりの身体活動時間は感染拡大後、約3割減っていました。長引く自粛生活が心身の健康に影響を及ぼしている可能性は高いといえます。高齢者は活動量が下がると簡単に筋力、体力が落ちてしまいます。実際に診療の現場でも「ふらついて転びそうになることが多くなった」「疲れやすくなり、外出するのが億劫」といった声をよく耳にします。


 65歳以上の高齢者のうち、フレイルになっているのは1割、約400万人という推計があります。フレイルの高齢者のその後を調べた調査では、3割以上が2年後に要介護認定を受けていました。歩行や食事、入浴が一人では難しくなり、入院や死亡のリスクが2倍前後に高まることも知られています。また、認知症になる可能性が高いとの研究報告もあります。


 フレイルは「健康と要介護の中間」の状態です。健康な時より心身は弱っているものの、介護が必要なほどではない、そんな中間の段階をイメージしてください。「ちょっと痩せてきた」「つまずきやすくなった」「物忘れが気になる」といった症状、それがフレイルの始まりかもしれません。元気に暮らしている方でも、5年前、10年前の自分と比べると「やっぱり年齢には勝てないものはあるよね」という衰えのサインを感じることがあるでしょう。このサインを見逃さないことが大事です。


 今、フレイルに注目が集まっているのは、この時期に生活に気をつければ、改善の余地が残されていることが分かってきたからです。年齢を重ねてフレイルになっても、またコロナがきっかけでフレイルになっても、あるいはそうなる前に、ちょっとした“衰え”に早く気付いて生活全般を見直せば、より長く健康を維持・向上できることが医学的・科学的に証明されています。フレイルの進行予防が、健康寿命を延ばし超高齢社会を楽しく生き抜く鍵となるのです。


 まずはフレイルチェックをしてみましょう。

3項目以上該当した場合をフレイル、1〜2項目でフレイル予備軍(プレフレイル)、該当なしは健常となります。


フレイルチェック

あてはまるものが3個以上あるとフレイルの可能性があります。

・体重が減少(6カ月で2〜3キロの体重減少)

・疲れやすい

・歩行速度の低下

・握力の低下

・身体活動量の低下


 2020年4月から始まったフレイル健診(75歳以上の高齢者が対象)では、厚労省がつくった身体の状態や認知機能、生活習慣に関する全15問の質問表を使います。健康上のリスクを総合的にとらえる内容になっています。

 回答結果からフレイルなど心身の衰えがみられると判断された方は、自治体ごとの独自基準に基づいて地域の保健師らが自宅を訪問し、生活指導や医療機関の受診につなげるのが主な流れとなっています。


 フレイルの予防法・改善法は、適切な運動や食事の指導・アドバイスが基本です。食事はたんぱく質を多く含む肉や魚や牛乳などをバランスよく食べることが重要。東京都健康長寿医療センター研究所は魚(さ)、油(あ)、肉(に)、牛乳(ぎ)、緑黄色野菜(や)、海藻(か)、芋(い)、卵(た)、大豆製品(だ)、果物(く)の10種類のうち、7種類以上を毎日食べることを推奨しています。頭文字で「さあにぎやか[に]いただく」と覚えてください。

 

 運動によって、衰えてきた筋力を鍛えることも大切です。今回、整形外科医として皆さんに伝えたい一番のメッセージは、適切な運動はフレイルに対して最も効果的な“薬”ということです。

ラジオ体操や散歩、ウォーキングなど自宅やその周辺でできる簡単な運動を習慣にしてほしいです。具体的にどんな運動をすればいいのか、当院の理学療法士がお勧めする筋肉トレーニングを簡単に紹介します。


 イスに座ったり、イスを支えに使ったりする運動は、初心者でも取り組みやすいです。 

 

 「スクワット」は、足を肩幅に広げ、膝がつま先より前に出ないよう注意します。便座に腰掛けるイメージで「1、2、3、4」と数えながら腰を落とし、「5、6、7、8」でゆっくり立ち上がります。下半身の中でも大きな筋肉である太ももとお尻が鍛えられ、転倒の予防にもつながります。最初は無理のない回数から始め、慣れてきたら1日に10〜15回繰り返すことを目標に“ややきついくらい”を目安にチャレンジしましょう。難しければ、イスに座って、立ち上がる動きを繰り返しても効果があります。


 「ニーリフト」は、イスに姿勢よく座り、同様にカウントしながら膝をゆっくり上げ下げします。足の上げ下げは自分のペースで良く、上げられるだけ“ちょっと”でもOKです。こちらも1日に左右10〜15回ずつが目標です。

 

 イスなどにつかまり、かかとを上げる「バックキック」は、高く上げる必要はないですが、膝を曲げないように注意してください。足を上げた際にお尻の後ろ側が動いている感覚があればうまくできています。こちらも左右10〜15回ずつ。いずれの運動も毎日、少しずつ行うことが肝心。テレビを観ながら取り組むなどして習慣づけるのがいいでしょう。


 繰り返しになりますが、フレイルは早い段階で自覚し、運動や食事の習慣を見直せば予防できるケースがほとんどです。気づきが早いほど効果は高く、健康な状態に戻れる可能性も高いです。不安なことや分からないことがあれば、かかりつけの整形外科医に相談してみてください。患者さんと二人三脚でフレイルに立ち向かい、運動や趣味など楽しみながらフレイルを予防する対策をアドバイスします。


 外出を控えるのは新型コロナ感染予防の観点からは重要ですが、そのせいで要介護になってしまったという事態は何とも避けてほしいものです。ウィズコロナを見据え、今こそフレイル対策を実践してください。

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