
中高年の方やスポーツをしている方など、「膝が痛い」という悩みを抱えている方が少なくありません。
スポーツをしている若い方は、練習や試合での激しいプレーなどで膝に大きな負荷がかかり、膝の靭帯や半月板などを損傷してしまったというものが多く、「膝(前十字・後十字・内側側副・外側側副)靭帯損傷」「半月板損傷」「鵞足(がそく)炎」「ジャンパー膝」「オスグット・シュラッター病」「膝蓋骨不安定症」「膝蓋前滑液包炎」「膝関節水腫」など症状・病名は多岐にわたります。
一方、中高年の方が「ひざが痛むので、歩くのが億劫」「歩くときに違和感を覚える」「正座できない」など、ひざの痛みや違和感を訴える場合、最も頻度が高いのは「変形性膝関節症」です。
変形性膝関節症は、膝の関節軟骨がすり減り、関節内に炎症が起きたり、関節が変形したりして痛みが生じる病気です。加齢、肥満、過去の膝の外傷などが原因とされ、特に女性に多くみられます。40代後半から50代、60代で痛みや違和感を感じ始めることが多く、加齢とともに誰にでも起こりえます。
国内で変形性膝関節症の自覚症状がある患者は約1000万人、自覚症状はないもののレントゲン検査でこの病気の所見がみられる潜在患者は3000万人に達するとされています。日本人の約5人に1人、40歳以上では約3人に1人、50歳以上では約2人に1人が変形膝関節症を抱えているというデータも報告されており、がんや糖尿病と並ぶ<現代の国民病>の一つといえます。
変形性膝関節症は、ゆっくりと進行していく病気です。初期症状は、立ち上がりや歩き始めといった動作を始める時、階段の上り下りの時などの痛みや引っ掛かり、ぐらつきで、しばらく休むと痛みはなくなる場合が多いです。膝を動かした時に痛みを伴うボキボキ、ゴリゴリ、ザラザラという音やきしみなどの違和感を覚える人もいます。
症状が進むと安静にしていても痛みが治まりにくくなります。また、炎症により関節内に水がたまって腫れたりします。さらに進行すると、膝の曲げ伸ばしができなくなったり、ひざが大きく変形してO脚になったり、普通に歩くことができなくなるなど日常生活に支障をきたすようになります。
変形性膝関節症と診断された方はそうでない方に比べ、移動能力の低下や運動器疾患の重度化、転倒による骨折などによって寝たきりや要介護になるリスクが約6倍高くなることが厚労省の研究で分かっています。また、結果的に認知症につながる可能性も懸念されています。
発熱や頭痛とは違って、ひざの痛みや違和感は「年のせいだから」「まだ大丈夫」などと放置し、医療機関を受診しないケースが多いです。非常に残念なことです。変形性膝関節症は進行性の病気ですから、放置していて良くなることは絶対にありえません。徐々に痛みや変形が強くなっていきます。
関節軟骨は一度すり減ってしまうと、完全に元の状態には戻りません。重症化してからでは、日常生活への影響もそれだけ大きくなるので、できるだけ早期に治療を始め、症状の進行を抑えることが大切です。初期の段階で受診すれば、症状と進行度に応じた治療法を検討できるので、治療の選択肢が広がるというメリットもあります。
変形性膝関節症は、動作を始める際の痛み・違和感が受診のサインです。
立つ、歩く、座る、かがむ、階段を上ぼる・下りる、などの動作時に痛みや違和感を覚えたら、すぐに受診してください。
次号では、診断・治療について詳しく解説させていただきます。
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