頚肩腕症候群とは、頭~頚、肩甲骨、腕にかけて痛みや痺れを主訴とする疾患群の包括的な診断名として1955年に提唱されたものです。
広義の一時的な診断名としているため、より具体的な介入方法を決定するためには、各種検査により原因が明確となった時点で本症候群を除外し、原因疾患名自体を診断名として用いるという考え方が一般となっています。
MRIやエコーなど検査技術の向上により、断定できない本症候群は減少傾向にあります。しかし、頚肩腕部の痛みや痺れ、こりを主訴として来院し、本症候群に当てはまる方は少なくありません。
また頭頸部は、骨や筋からなる狭い隙間を重要な血管や神経が通過しています。このため、局所的な異常が肩甲骨や腕にかけて影響を及ぼし、症状や障害が広範囲へ広がりやすい特徴があります。このような方は医療機関を受診するまでの期間が長く、様々な二次的障害が生じます。これらによる悪循環が病態を複雑化させて症状改善に長期間を要することが多いです。そのため、より早期から治療的な介入を開始し、二次的障害を最小限にとどめることが重要になります。
頚肩腕部の痛みや痺れ、こりを主訴としている原因の一つに筋肉性疼痛と呼ばれる局所的慢性疲労症状があります。これらは日常生活や職業における不良姿勢や同一姿勢の保持、単純動作の反復、不適切な動作環境などが考えられます。また、本症候群に見られやすい頭部前方姿勢(猫背)は頚周りの筋肉に持続的な緊張状態が生じ、筋肉の循環不良による疲労や発痛物質の蓄積が生じやすい環境になります。
頭部前方姿勢の方は、頭頸部の筋力低下が起こりやすく、頭部前方姿勢を効率的に修正することが困難になりやすいです。このような不良姿勢が慢性化すると症状が複雑化し治療が長引いてしまう場合があります。
今回は頚肩腕症候群の慢性化予防や筋力強化に有効なセルフケアをご紹介します。
●頭頸部の筋力トレーニング
①仰向けに寝て、頭の高さは肩と同じくらいなるようタオルを引いて調節します。その後
あごを引いて天井を見ます。
②頭の後ろ全体でタオルを押し付けるように力を入れます。このとき、首の前側や胸周り
の力が入らないように手で触って確認します。また上下の歯は接触しないように口を閉
じて行います。
③上記②を10秒間10回行います。1日2~3セットを目安にすると効果的です。
●頭頸部周囲筋の緊張を和らげる運動
①仰向けに寝て、頭の高さは肩と同じくらいになるようタオルを引いて調節します。そ
の後あごを引いて天井を見ます。
②上下左右にゆっくりとリラックスした状態で首を動かします。痛みが出ない範囲で小
さく動かし、慣れてきた段階で徐々に大きくゆっくり動かしていきます。
③上記②を10回ずつ行います。1日2~3セットを目安にすると効果的です。
運動は痛みがない程度に無理せず行いましょう。回数やセット数は自分の状態に合わせて増減させて調整してください。違和感や痛みが強い場合などは早めの受診をお勧めします。
最後に健康的な生活を過ごすには体のメンテナンスは欠かせません。お体に違和感がある場合は我慢せずお近くの医療機関を受診し、できる限り早めの対策を行うように心がけましょう。
引用文献
協同医書出版社 理学療法ハンドブック第三巻
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