整形外科領域において、X 線撮影は骨折の確認や形態異常を診るためにも必須な検査と言えます。より詳しく診るために同じ部位を様々な角度から何枚も撮影したり、経過観察のために数週間おきに撮影したりします。
そのため、こんなに毎回たくさん撮って人体に影響はないのか、と被ばくを気にする患者さんの声も耳にすることもあります。そこで、今回は放射線による被ばくについてお話ししたいと思います。
〇 自然放射線と人工放射線
普段の生活時において、地殻中や大気中に存在する放射性物質や遥か彼方の宇宙から降り注ぐ宇宙線など自然界からも放射線を浴びています(自然放射線)。
これら自然放射線による被曝は世界平均で年間 2.4mSv (Sv : シーベルト、放射線の影響を評価する指標の単位)と言われており、日本の場合はそれよりも低いとされていますが、日常でこれらの被曝を気にしながら生活している人は多くはないと思います。
一方、X 線検査や CT 検査など医療で用いられる放射線(人工放射線)による被曝は、医療の充実していることもあり、世界平均に比べて日本は高いと言われています。代表的な放射線を用いる検査の被曝量は、胸部単純 X 線検査 0.1mSv、腰椎単純 X 線検査 1.5mSv、CT 検査で 10mSv程度となっています。
〇 被曝による身体への影響
被曝による影響は放射線防護上、確定的影響と確率的影響に分けられます。
確定的影響とは、影響がではじめる最低線量値(しきい値)があり、その値を超えないと症状は出ません。しきい値を超えたからと必ず症状がでるわけではありませんが、被曝線量の増大とともに影響の出る確率も増大し、重篤化していきます。一時不妊、永久不妊、脱毛、皮膚障害、白内障、胎児への影響などがこれにあたります。
確率的影響とは、しきい値がないと仮定されており、200mSv 以下の低線量では疫学的に被曝による影響を検出するのが困難なため明らかになっていませんが、高線量下では被曝線量の増大に比例して発生リスクが上昇することが分かっています。がん、白血病、遺伝性の影響などがこれにあたります。
これらのことをみて、やっぱり放射線を使う検査は危険なのでは、と不安になるかもしれませんが、確定的影響の中でも最もしきい値が低いとされている一時不妊や胎児への影響がではじめるのが 100mGy (Gy:グレイ、物質がどれだけの放射線エネルギーを吸収したかを表す単位、吸収線量ともいう)といわれていますが、実際に用いられている X 線検査で 1~2mGy以下、CT 検査でも 10mGy 以下であり、通常の検査でしきい値を超えるようなことはまずありません。
また、確率的影響にはしきい値がないとされているため、被曝がある限りリスクがないとは言えませんが、低線量での被曝での発生率の増加は統計的に明らかではなく、短期間に極端な回数の検査をしない限り、通常の検査で問題となるような被曝はまずありません。
診断目的に使用されている放射線による検査はしっかりと管理されており、心配するほどの被曝量ではありません。放射線診療はあくまでも患者さんへの検査及び治療が目的であり、被曝は必要最小限になるよう行われ、かつ、利益がリスクより大きいという医師の判断の下で検査されていますので、安心して受けていただければと思います。
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